「いちばんやさしい使えるベトナム語入門」出版のお知らせ

 
お知らせです。この度「いちばんやさしい使えるベトナム語入門」(池田書店)という語学テキストを執筆しました。
 
これからベトナム語を始める方にとって、少しでもベトナム語が身近に感じられるよう、わかりやすさを大切な指標として制作しました。発音が難しいとされるベトナム語ですが、前半パートには声調の動きを表す矢印を付け、また付属の音声(ダウンロード形式)には「普通スピード」と「ゆっくりスピード」を収録して、ていねいな発音練習がしやすい仕様となっています。
 
日本に暮らすベトナム人が急増した昨今、ベトナム語を学ぶ日本人の数も増え、巷では一昔前に比べてさまざまなベトナム語テキストを見かけるようになりました。これはとても素晴らしく、嬉しいことで、こうしたベトナム語への関心の高まりに、もし本書も少しでも貢献できるのであれば、これ以上の喜びはありません。
 
本日より全国の書店、Amazonなどにて販売が開始します。また私がベトナム語を教えているゴーウェルランゲージスクール(銀座)でも、期間限定で本書を取り扱っていただけることとなりました。ベトナム語の勉強を始めてみようかな、少しだけでも話せたらいいなという方に、ぜひお手に取っていただけたら嬉しく思います。
 
最後になりますが。書籍づくりは全く初めての経験で、こうして出来上がった今も、嬉しさと不安で胸が押しつぶされそうですが、多くの方のお力を借りて無事に発売へとたどり着くことができたこと、本当に感謝しています。出版社である池田書店様、編集・制作を担ってくださったエディポック社様、校正として参加してくれたLê Thanh Thiên Hươngさんをはじめ、本書の制作・販売に携わってくださったすべての方、また執筆に取り組む私を応援し励ましてくださった方々に、心より御礼申し上げます。
 
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★ゴーウェルランゲージスクール
 
★Amazon販売ページはこちら
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多文化共生誌TOMO×TOMO

 
私の住む埼玉県川口市は、東京の新宿区、江戸川区に続いて全国で3番目に外国人住民が多い自治体です(2019年末時点の統計データはこちら)。国籍別にみると1位は中国、2位がベトナム。駅や街中でもベトナム語をよく耳にします。
 
そんな川口市では年に3回、多文化共生情報誌TOMO×TOMOを発行しています。市の歴史や名物名所、お役立ち情報などを多言語(日英中越韓)で紹介しています。
 
私はこの約2年弱の間、ベトナム語の翻訳でこの情報誌の製作に参加させていただきました。今月発行の第11号を最後に別の方にバトンタッチとなりますが、貴重な学びがたくさんありとても感謝しています。
 
市役所や行政センター、公立学校、公民館その他の施設で無料配布されています。また過去のものは市のホームページからも閲覧できます。必要とする方の元に届くことを願っています。
 
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「MIU404」第5話感想~ベトナム語への真摯な姿勢

私はテレビドラマが大好きで、毎期けっこうな数を観ています。これは私にとって本来リラックスできる、自宅での大切な余暇時間なのですが… 7月24日(金)に放送されたTBSドラマ「MIU404 機動捜査隊」の第5話は、胸が締め付けられる思いで視聴することになりました。以下にはその感想を綴っていますが、ネタバレを含みます。そして長いです。あらかじめご了承ください…!

 

■ 丁寧に描かれた外国人問題

テーマは日本に暮らす外国人労働者の問題。ベトナム人女性マイが重要な役どころを担っていて、演じたフォンチーさんもベトナム人俳優の方でした(日本生まれ日本育ちで、本来は日本語がとても堪能な方みたいです)。近年、日本のドラマ、特に刑事ドラマでこうした外国人労働者問題が取り上げられることは増えてきましたが、今回の「MIU404」ほどこの問題に深く切り込んだ作品はなかったのではないかと感じました。

技能実習生の失踪問題(5年間で延べ2万6000人の失踪者という数字も登場)や、送り出し機関と監理団体の黒い関係。「留学生」という名の出稼ぎ労働者たちと、彼らが本来働ける週28時間の壁を超え、ダブルワークやトリプルワークをしているという実態。もちろん、素晴らしい雇い主や良い労働環境に恵まれた技能実習生も、熱心に勉学に励んでいる留学生の方もたくさんいます。しかしながら、劣悪な環境から逃げずにはいられない、来日前に背負った借金の返済のために過重に働かなければならない、こうした困難な状況に置かれた外国人たちがいるのは事実であり、そんな彼らに気づかずにいるか、気づいても目を瞑ってしまう私たち日本人がいるのもまた事実です。

私はこれまでの仕事の中で、実際に失踪し、身を潜めるように生きてきた技能実習生たちに出会い、通訳という立場で彼らの話を聞いてきました。もちろんドラマですから、良くも悪くも多少の誇張はあると思いますが、今回の物語の中には、細部にわたって現実の問題が十分に反映されていて、私にとっては決して他人事にはできない内容でした。最後に特定技能に触れられていたのも良かったです。

ドラマのレビューについては、PlusParaviに掲載されたこちらの記事が素晴らしかったので、ご参考までに。

 

■ ベトナム語への真摯な姿勢

ところで、今回の「MIU404」が素晴らしかったのにはもう一つの側面があります。それはベトナム語に対する、製作陣のみなさんの真摯な姿勢でした。私はテレビの前で心底感激しました。特にベトナムが舞台になっているわけではない作品で、こんなにもベトナム語が丁寧に扱われ、物語の重要なパーツとなっているドラマを、少なくとも私は見たことがありませんでした。

例えばマイや志摩(星野源さん)が発する「タイサオ」という単語。こちらは Tại sao?「なぜ?」という意味のベトナム語で、物語のさまざまな場面で、時に軽妙に、時に重い意味を帯びて登場しました。

他にもベトナムでは「3」が不吉な数字であり、「9」がラッキーナンバーであること。ドラマ内でその理由までは説明されませんでしたが、一説によれば、「三」(漢越語 tam/タム)は「惨」(漢越語 thảm/ターム)を連想するため、「九」(漢越語 cửu/クー)は「久」(cửu)と同じ単語であるためと言われています。ちなみに漢越語とは漢字由来のベトナム語。現在、数字は主に純越語=漢字に由来せずベトナム語として元々存在する単語が使われており、3=ba(バー)、9=chín(チン)と言います。ベトナムビールの333(バーバーバー)は足して9となり、ラッキーナンバーを商品名にしているのです(こちらの記事も参照させていただきました)。

そういえば、これも言語のことではありませんが、マイとその同居人の履歴書?を調べているときに、それぞれの出身地が北部の Hải Dương(ハーイズオン)と南部の Bến Tre(ベンチェー)であったことも、妙にリアリティがあって、製作陣のみなさんが入念な調査をされていることがうかがえます。

 

そんななかでも秀逸だったのは、犯人の水森(渡辺大知さん)がSNSを通し、コンビニ強盗を呼び掛けるフレーズ。

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Dùng bất công bình trả lại bất công bình. 

「理不尽には理不尽で返せ」

Chúng ta có quyền cướp số tiền đó. 

「俺たちには金を奪う権利がある」

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劇中で指摘されていたように、「理不尽」という単語は本来 bất công(漢越語で「不公」/バッコン)であるところ、我流でベトナム語を学んだという水森はこれを bất công bình(バッコンビン)と誤って書き、犯人はネイティブではない?→日本人?という推理につながります。

bất công bình は存在しない単語ですが、あえて漢字に置き換えると「不公平」。日本語とベトナム語に共通する漢字という概念をヒントに、逆算するようにベトナム語を検討するのは、日本人学習者に特有の発想と言ってもいいでしょう(私も時々やります)。そんな「ナチュラルな間違い」を入れてきたところに、本作の脚本が非常によく練られていることを感じました。さすが野木亜紀子さん(以前から大好きです)。神は細部に宿るとはこういうことだと思いました。

 

最後に、これは私の勝手な印象ですが。水森を演じた俳優の渡辺大知さん、ベトナム語の台詞をものすごくたくさん練習されたんじゃないかと思います。ベトナム語は発音が複雑な言語。何と言いますか、「音のストライクゾーン」がとにかく狭くて、ルール通りに発音をしないとなかなか通じません。ドラマの終盤、水森が日本語とベトナム語を交互に叫ぶシーンでは、涙を流しながらも、あんなに大声を出しながらも、きちんと聞こえるベトナム語でした。それはとてつもなく悲しい台詞だったけれど。

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Người nước ngoài đừng đến Nhật! 

「外国人は日本に来るな!」

Không được đến Nhật!

「日本に来ちゃいけない!」

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他のドラマでベトナム語がぞんざいに扱われるのを見て悲しくなったことがある身としては、水森の悲痛な叫びにこんなにも胸が苦しくなったのは、物語の運びや現実とのリンクはもちろんのこと、渡辺大知さんの演技とそのベトナム語によるところが大きかったです。

 

ドラマでベトナム語ができる限り自然な形で物語の一部となっていたことは、それだけ多くのベトナム人が現実に日本に住んでいるという背景があるからこそ。日本のドラマが、メディアが、外国語に真摯に向き合うということ、それはつまり、外国人をこの社会の一員して受け入れることと同義と言えるのではないかと、視聴しながら考えていました。私たちがベトナム語を学び、知る意味もここにあると思います。外国語を知ることは、その国の人を、目の前の相手を知ることだと信じています。

「MIU404」第5話は7月31日(金)までTVerにて見逃し配信中。ぜひベトナム語にも注目してご覧ください。良い作品を拝見できて本当に嬉しかったです。

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美しさの再構築

本サイトの「勝手に翻訳シリーズ」では趣味で翻訳したものを掲載しています。

最近こうした翻訳作業を通して再認識したこと、それは、翻訳という作業は(特に自分から作品を選んで行う翻訳は)原文に感じた美しさを別の言語で再構築することなのではないか、ということでした。少し前、インスタにも投稿していた内容ですが、あらためてここに掲載してみます。

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【そのときは彼によろしく】

nếu…〔ネウ〕もし〜なら
gặp〔ガッ〕会う
người ấy〔ングオイ〕その人
cho tôi + V〔チョートイ〕私に〜させてください
gửi〔グーイ〕送る
lời〔ローイ〕言葉
chào〔チャオ〕あいさつする
*gửi lời chào で「あいさつの言葉を送る」→「よろしく伝える」

美しい日本語が、美しいベトナム語に(その逆も然り)訳されているのを見るときほど、言語を勉強してよかったなぁと思うことはありません。ここでの「美しさ」は極めて主観的な感覚なのですが…

市川拓司著「そのときは彼によろしく」。長澤まさみさんと山田孝之さんで映画化もされましたね。私はこの「そのときは彼によろしく」という日本語タイトルの語感がとても好きだったのですが、ある日ホーチミンの書店でそのベトナム語訳(写真右)を発見したとき、ベトナム語になっても、かつて感じた「美しさ」がそのまま維持されていることに、静かに感動したのを覚えています。

直訳は「もしその人に会ったら、私からよろしくと伝えて」という感じでしょうか。訳者さんの言葉選びの素晴らしさを感じます。

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これからも自分にできることを精一杯やっていこうと思います。

From Hem

あらためて発音の話

ベトナム語は発音が難しい。

これはベトナム語を学習した人ならだれもが感じる悩みでしょう。日々のレッスン中にも発音に関するいろいろな質問をいただいて、私自身も発音の習得についてあらためて考えるところがあり、一体発音の何がどう難しいのか、この機会に整理してみたいと思いました。自分のメモ的内容なので、経験者のみなさんにとっては「もう知ってるよ~」ということかりだと思いますが、「そうなんだよな~わかるよ~」とあたたかい目でご覧いただければ幸いです。

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ベトナム語の発音には3つの要素「母音」「子音」「声調」が含まれます。「声調」は日本語にはない概念ですし、「母音」「子音」は日本語のそれとはずいぶん音が異なります。そしてベトナム語の発音が私たちを悩ませるのは、この3つの要素が1つの語の中に同時に発生するからと言えます

「終わる、終了する」を意味する kết thúc(ケットゥッ)という熟語を例に具体的に見てみましょう。これは〈結束〉という漢越語(漢字由来のベトナム語)で、二字熟語として使います。ちょうど先日、とある生徒様から「なかなか通じないんです」とご相談を受けた語でした。

kết thúc

●まずは kết をご覧ください。k=頭子音、ê=母音、t=末子音の3文字が連なって1語となり、この1語に対してdấu sắc(ザウ ザッ/鋭く上がる声調)がついている構成です。

●子音 k は後ろの母音 ê と結びついて「ケ」と読みます。ê という母音は e の上に三角帽子の記号がついていて、口をあまり開けずに発音します。最後の t は「ット」の「ト」を発する直前で止めます。これに鋭く上がる声調をつけて「ケッ(ト)」と読みます。「ケッ!何さ!」と文句を言うときの「ケッ!」と似ています。(言わない?)

●続いて thúc をご覧ください。th=頭子音、u=母音、c=末子音の3文字で1語となり、やはり鋭く上がる声調がついています。声調は計6種類ありますが、このように同じ声調が続くのは珍しいことではありません。

子音 th は後ろの母音 u と結びついて「トゥ」と読みます。子音 th が有気音(息をぶわっと吐き出して発する音)のタ行であることと、母音 u が口をぎゅっとすぼめる「ウ」であることを意識するのがポイントです。末尾の c は「ック」の「ク」と発する直前で止めるのですが、-uc がセットになると口に空気を入れて(少し頬を膨らませて)終わるという不思議ルールがあります。語全体に鋭く上がる声調をつけては「トゥッ(ク)」と読み、読み終わるときには頬を膨らんでいる格好です。

 

…と、ここまで長々と書いてみて、本投稿内に音声や動画を掲載できないのが悔やまれるのですが(何か良い方法があれば後日追加します)、「母音」「子音」「声調」の3要素が1語の中で同時発生することをイメージいただけたでしょうか。ベトナム語の発音はつまり、1つの語を読むときに同時に意識しなければならないことが多いのです。もちろん上記は一例です。母音(単母音だけで12コ)・子音(頭子音24コ、末子音8コ)・声調(6コ)にはそれぞれのルールがありますし、上記のようにこれとこれを組み合わせたときはこうなるという特殊ルールもあります。すべてのルールを頭で理解できたとしても、口で実践するのにはまた別の苦労があるでしょう。

 ですが音に対して厳密性を求めるベトナム語、これらを克服しないことには、残念ながらなかなか通じません。そして私はこの音の豊かさこそがベトナム語の美しさだとも感じています。「ルールの見える化」と「効果的な実践方法の確立」、ベトナム語学習に携わる者の端くれとして、他人事にしてはいけない重要課題だと思います。そんな決意の備忘録。

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