通訳の仕事

7月に入ってからというもの、通訳依頼が急増している。

お声がけいただけること、お仕事があることのありがたさを感じながら、同時に複雑な気持ちにもなっている。ここで詳しくは書けないけれど、私が主に請け負っている通訳業務は、「困っているベトナムの人々」を対象にしているからだ。どう困っているのかはその人の立場や事情によって全く異なるし、「困り事」を招いてしまった要因はベトナム人当事者にもある。

またその背景には、言葉の壁や、日本とベトナムの文化習慣の違い、それによる相互の誤解もあるだろう。一方で、彼らベトナム人を受け入れている側、つまり企業だったり学校だったり、仲介業者だったり個人だったり、ベトナム人を取り巻く日本側にもさまざまな問題があって、そうした問題を要因として「困り事」が起きてしまったケースも少なくなく、とても、やるせない。先日NHKで、日本で重病にかかったり、亡くなってしまったベトナム人技能実習生を取り上げた番組を放送していたのを見て、やるせない気持ちは増大した。

◆NHKスペシャル「夢をつかみにきたけれど ルポ・外国人労働者150万人時代」

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私にできることは何だろうかと、そればかりを考えている。少なくとも今の私は、通訳者として彼らに接する機会を得て、対峙している。通訳者ができることは何だろうか。それはいつだって、目の前で展開するベトナム語や日本語を正確に、誠実に訳すことだ。

昨日、別の仕事で出会った人から「通訳者として気を付けていることは何ですか?」と質問された。すぐに「ごまかさないことです」と答えていた。もちろん、プロとして気を付けるべきことは、専門知識や技術的なこと、態度的なことなど、他にもたくさんあると思う。でも、たぶん私の根源にある優先すべきことは「ごまかさない」なのだ。人の紡ぐ言葉を大切にしたいという気持ちは、この道に進もうと決めたときから変わらない。何をどう話すのか、あるいは何を話さないのかは、その人自身だと思っている。対話を必要とする両者の人となりが伝わり、相互理解の一助となるような、そんな通訳者でありたい。

今月は、こうした想いをあらためて胸に留める月なのかもしれない。

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