日本では、少なくとも山梨では、まだまだ手に入りにくいベトナム語の書籍。現地に到着したからにはぜひ色々購入したい!と意気込み、早速書店に行ってきました。ホーチミン市内にはもちろん大小さまざまな書店がありますが、私はついつい1区中心部、Nguyễn Huệ通りのFAHASA書店に行ってしまいます。ちなみにFAHASA(ファハサ)は「Phát hành sách(ファッ・ハイン・サィッ=本を発行する)」の略称だそう。


入口にいた守衛さんに、念のため「荷物をロッカーに預ける?」と尋ねたのですが、首を横に振られたのでそのまま入店しました。私が住んでいた頃(2009〜2014年)は必ず預けるように言われていたので、時代の変化をほんのりと感じました。
まずは、日本語の書籍がさらに増えたらしいと噂で聞いていた2階へ。FAHASAは以前より紀伊國屋書店と提携しており、ホーチミン市(やハノイ?)で日本の書籍を、東京でベトナムの書籍を購入することができます。
私には具体的な比較はできないので、あくまで印象ですが、2年半前と比べると確かに増えたように感じました。並んでいたものの多くは日本の漫画、児童書、そして日本で出版されたベトナム語学習用のテキスト。実は2年半前には拙著も置いていただいていたのですが、残念ながら今回は見当たりませんでした。
1階に戻り、事前にメモしていた本を探しながら、棚をあちこち回ります。書籍の陳列方法に慣れず、目当ての本になかなかたどり着けなかったので、途中で店員さんに尋ねて探してもらったりもしました。私はこの、本を探す時間がとても好きで、このまま本棚をずっと眺めていたいなぁと思わされました。
これも昔話で恐縮ですが。かつて現地に暮らしていた頃、出身大学の教授がホーチミン市視察にいらして、案内役を務めたことがありました。その際、自由時間に書店に行きたいという教授をこのFAHASAにお連れすると、「ありがとう。今から2時間、僕を放っておいてくれる?」と言われ、その2時間後にお迎えに行ったところ、2つのカゴに本が山盛りになっていました。英語翻訳の大家であるその教授は、英語で書かれたベトナム関連の書籍だけでなく、ベトナム語の書籍も多数選ばれていて、「言葉はわからないから、ジャケ買いだよ」と仰りつつ、特に気になっていたらしいいくつかの作品を私に見せ、タイトルのベトナム語の意味を確認していました。大量の本を購入した教授は、レジで日本への郵送の可否を尋ね、(今はどうかわからないですが少なくとも当時は)FAHASAの店舗からの外国への郵送サービスがないとわかり、その足で一緒に中央郵便局に行き、日本の住所を指定して国際郵便の手配をしました。一連の行動に新鮮な驚きを感じていると、教授は「外国に来るといつもこういう感じ」とニコニコされていて、その好奇心旺盛で軽快な御姿に静かに感動したのを覚えています。FAHASAに来るたびに蘇る思い出です。
さて、今回私が購入したのはこちらの8冊。教授のように大量に購入して郵送する…というのは現実的ではないため、日本から持ってきたトランクのスペースと相談して、このような感じになりました。

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①Phạm Thị Kiều Ly “Hành trình sáng tạo chữ quốc ngữ”
ファム・ティ・キエウ・リー「クォックグー創造の道程」
②Phạm Thị Kiều Ly “Lịch sử chữ quốc ngữ (1615-1919)”
ファム・ティ・キエウ・リー「クオックグーの歴史(1615~1919)」
③Lê Trọng Nghĩa “Tiếng Việt ân tình – Tập 1”
レ・チョン・ギア「愛情深いベトナム語 第1巻」
④Lê Trọng Nghĩa “Tiếng Việt ân tình – Tập 2”
レ・チョン・ギア「愛情深いベトナム語 第2巻」
⑤Nhiều tác giả “Sài Gòn chọn nhớ những điều thương”
複数著者「サイゴンが選んだ愛おしい記憶」
⑥Đoàn Ánh Dương biên soạn, giới thiệu “Phụ nữ tùng thư – Phụ nữ bàn về vấn đề phụ nữ trên Phụ Nữ Tân Văn”
ドアン・アイン・ズオン編「女性選集 – 『婦女新聞』に見る女性問題の論考」
⑦Nguyễn Hồng Anh dịch, Haruki Murakami “Nghề viết tiểu thuyết”
グエン・ホン・アイン訳 村上春樹「職業としての小説家」
⑧Trương Thùy Lan dịch, Haruki Murakami “Ngôi thứ nhất số ít”
チュオン・トゥイ・ラン訳 村上春樹「一人称単数」
注)
※日本語タイトルは、⑦⑧を除いて木村による仮訳です。
※Fahasa.com(ファハサのオンラインストア)でベトナム語の書籍名を検索すると、それぞれの商品ページを閲覧することができますが、⑤のみ見つかりませんでした。
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①~④は渡航前にチェックしていたものです。
①②は以下のNote記事を拝読して知りました。
私はかつてホーチミン人文社会科学大学ベトナム学部の修士課程に所属していたのですが、その当時「クォックグー」(=現在のベトナム語の文字体系(アルファベット+発音記号))成立の歴史に惹かれ、いくつかの文献にあたっていたことがありました。今でも時々情報を探すことがあるのですが、偶然見つけたこちらの記事が大変興味深く、今はこんな本もあるんだ!と、この機会にあらためて勉強してみたいと思った次第です。残念ながら表題となっている「クオックグーについての100の質問」は今回の店舗には置いてありませんでしたが、記事内で紹介されているその他の2冊を購入することができました。
③④も何かの調査中に偶然知り、筆者の方のインタビューを読んでさらに興味を持ちました。ベトナム語への理解をもっともっと深めることができたらと思っています。
Tiếng Việt là thứ tiếng của một dân tộc rất trọng ân tình – Báo tuổi trẻ
⑤~⑧は店内を見回って偶然出会ったものです。
⑤は、人々がコロナ禍のサイゴン(=ホーチミン市)で何を思い、どう過ごしたかの記録だそうです。今、日本でもコロナ禍当時を振り返る書籍や映画作品をよく見かけるようになりましたが、ベトナムでもその傾向があるのかなと気になりました。
⑥は、20世紀初頭、南部ベトナムで女性たちによって創刊された週刊誌『婦女新聞』に、1929〜1935年に掲載された女性記者・作家たちの記事が厳選収録されています。フェミニズムの観点からぜひ勉強したいと手に取りました。
⑦⑧はお馴染み、村上春樹作品のベトナム語訳ですが、⑦は装丁がとても可愛く、そして⑧はたまたま私が日本から持参して移動中に読んでいたもので、奇遇に思い衝動買い。どちらも日本語版と読み比べてみたいです。

現在の私は、昔と比べて読書スピードが遅くなり、読む量自体もずいぶんと減ってしまったため、「買う」以上に「読む」のハードルは高いのですが…(積読だけは意欲的)。帰国した今、スローペースでもいいから丁寧に読んでいきたいなと思っています。そういう書籍たちに出会えたことが嬉しいです。
さて、最後にちょっとしたエピソードを。
実は今回、「買おうとしたら買わせてもらえなかった本」がありました。それは「ホー・チ・ミン全集 第4巻」です。やはり私が修士課程にいた頃、ホー・チ・ミン氏の思想や政策を調べていた際にこの全集を知りました。大学の図書館だったか市の図書館だったか、詳細は忘れてしまいましたが、そこで全集の必要部分をコピーしてもらい、繰り返し読んで勉強していました。今回FAHASAで久しぶりに再会し、つい高揚してしまって、当時よく参照していた「第4巻(1945-1946)」があったので購入してしまおう!と、他の本と共にカゴに入れてレジに並びました。
すると私の姿を見た近くの店員さんから「(ベトナム語で:全集?!あ、外国人…)(英語に切り替えて)Sorry! This is Combo!」と呼び止められました。英語が苦手な私、その後ベトナム語でやりとりをしましたが、なんと「ホー・チ・ミン全集」は全集として全15巻分を一緒に購入しなければならないとのこと。「え~!」と驚きを表明しつつ、心の中で(お金の問題ではない…貴重なもの…教授に倣って郵送を使えばいいのか…いやしかし私のような不束者が衝動買いして良いものだろうか…宝の持ち腐れでは…)と逡巡し、ここは一旦保留にしようと第4巻を棚に戻しました。結局、今回は諦めることにしたのですが、「ホー・チ・ミン全集」は一括購入しなければならないこと、こういうときは英語で「Combo」と言えばいいこと、同時に2つの学びを得ることができました。
そして帰国後の今、この全集についてあらためて調べていたところ、下記リンク先の「ベトナム共産党電子情報ポータル」にて全巻すべて読めることも発覚し、さらに驚いている私です。
Hồ Chí Minh toàn tập – Cổng Thông tin điện tử Đảng Cộng sản Việt Nam

書店に行った話だけで随分と長くなってしまいました。最後までお読みいただきありがとうございます。マイペースな投稿頻度ではありますが、旅の記録は続きます。
