「ホーチミンに行ったらこれだけはしたい!」
その3 メトロに乗りたい
2024年12月に開通したホーチミン市都市鉄道1号線。私が暮らしていた頃にはすでに着工していて、開通までに長い年月を要したことももちろん知っていたので、その完成した姿をぜひ拝みに行きたい!というのが、今回の旅を決めてからずっと考えていたことでした。
開通時の様子は現地在住の友人達にも色々と教えてもらいましたが、ネット上ではこちらの記事が詳しく、開通に至るまでの経緯も含めて大変参考になりました。
東洋経済ONLINE – 日本支援で開業「ホーチミンメトロ」盛況は続くか 初の「都市鉄道」、渋滞の街で利用は定着する?
今回、私は始発のベンタイン(Bến Thành)駅から、9駅先のビンタイ(Bình Thái)駅まで向かうことにしていました。ある友人の家にお招きいただいていたのですが、その家がビンタイ駅からセオム(xe ôm / バイクタクシーのこと)を使ってしばらく行ったところだと案内されていたので、この機会を乗車体験にあてたのです。
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まずはホテルから徒歩でベンタイン駅(地下駅)へ。地上の出入口から地下へと降りていく様は日本のそれと変わりありません。案内表示はすべてベトナム語+英語。人の多さはこれが常態なのか私には判断できませんでしたが、思っていたよりも利用者がいるように感じられ、16時台だったので、多くは一日の仕事や勉強を終えて帰路に着く人たちなのかな…と想像しました。駅構内はとても綺麗で清潔感があり、その造りからは、私が一時期よく利用していた「東京メトロ南北線」や「埼玉高速鉄道」が思い出されました。





切符の買い方は調べていなかったのですが、券売機の案内がわかりやすく、特段困ることはありませんでした。画面上で降車駅を選択すると金額が表示され(ビンタイ駅までは27000 ドン)、現金を入れるとお釣りとプラスチックカードタイプの切符が出てきました。クレジットカード等が使えるのかはうっかりしていて未確認です。切符を自動改札機にかざして通るのは日本同様ですが、改札の直前にスタッフさんが立っている点が新鮮で、実際、私がどこにタッチすべきか迷っていると親切に教えてくれました。まわりの様子を見ていると、定期券的なものを持っている(スマホを利用している?)人も多そうだったので、切符の購入には他にもさまざまな方法があるのだろうと思います。


改札を通った先にある少し開けた空間の、天井の模様が美しく印象に残りました。水色の路線図には「東京メトロ東西線」を想起。どの土地にいても、路線図は見ているだけでワクワクするものですね。



エスカレーターを下ってホームへ。ホーム上の各設備や時刻表示の方法なども、やはり全体的に日本と似ていると感じました。ちなみに、2年半前にハノイで2A号線に乗ったときは、「●時●分発」ではなく「●分後に来ます」という表示方法だったので、ここは南北で違うのだろうかと、ハノイ都市鉄道の現在も気になりました。



やって来た電車に乗り込みます。ハードタイプの椅子、やや低めの吊革が特徴的で、可愛らしいデザインの優先席にもほっこり。車内はみなさん静かで、スマホを触ったり、居眠りをしたりする姿がよく見られ、会話する声はあまり目立ちませんでしたが、単に一人で乗っていた人が多かっただけかもしれません。車内アナウンスも、具体的な文言は忘れてしまいましたが、規則的で丁寧な説明がなされているという印象を受けました。途中の駅から(先の記事によれば「バーソン(Ba Son)駅」以降)は地上に上がり、地下を走る区間は実はそんなに長くないことも実感しました。私は始発駅からの乗車だったので座れましたが、その後は続々と人が乗り込んできて、車内は常にそれなりに混雑していました。



約30分の乗車を経て、無事にビンタイ駅(地上駅)に到着。ビンタイ駅のホームの様子には、やはり私が一時期よく利用していた「東武東上線」を連想しました。階段を下りて改札に向かう途中、トイレが設置されていたのですが、これがここまで見てきた中で一番日本らしいかもしれないと感じました。外観だけなら、さながら日本のショッピングセンターの一角。何がそう感じさせるのだろう?と考えた結果、ベトナムではほぼ見たことがない「男性=青、女性=赤」という色分けのせいでは?と思い至りました。中も確認してみようとドアを開けた瞬間、強い香りが飛び込んできて驚いたのですが、個室を覗いてその理由が発覚。芳香剤の代わりでしょうか、束ねられたレモングラスが壁に掛かっていたのです。ここはベトナム的なんだなぁと、妙にホッとした瞬間でした。


改札を出ると国旗がはためいていて、国慶節の名残を感じます。そして外に出て驚いたのは、駅の高架下に駐輪場が完備されていたことです。利用者のみなさんは駅までバイクで来て、そこにバイクを置いて電車に乗るのですから、当然と言えば当然です。この後お会いした友人からの情報によれば、駅周辺のカフェなどでもバイクを預かるサービスが生まれているとのこと。おそらく一年ほど前にはまだなかったであろう習慣が今では存在していること、こうして人々の生活様式は徐々に変わっていくのだという変化の渦中を垣間見えたことに、非常に感慨深い気持ちになりました。
最後に失敗談をひとつ。
ビンタイ駅から友人宅までは距離があるため、駅で「流しのセオム」を捕まえようと企んでいたのですが、これが驚くほどに捕まりません。周辺を散策してみたのですが、そもそも「流しのセオム」が全くおらず、それらしき人に声をかけてみたらGrabのドライバーさんで、「客を待ってるんだよ」と断られたりもしました。ビンタイ駅から出てきたみなさんは、預けていたバイクに乗って自分で帰る人、家族や知り合いの迎えを待っている人、Grabを使って迎えを呼ぶ人…とざまざまでしたが、どなたもすぐに駅を離れるので、私だけが取り残され、だんだんと不安になってきました。
実は今回の滞在では、Grabアプリも、現地のSIMカードも特に用意していなかった私。移動の際にはその都度セオムやタクシーを捕まえ、通信の際には日本のスマホをホテルや店舗のWi-Fi環境下で使っていましたが、それでなんとか乗り切れていました。見知らぬ土地で突如、交通手段が見つからない状況に陥り、どうしよう…思い切って近くのカフェに入って店員さんに電話を貸してもらおうか…などと逡巡したのですが、ここで助けられたのが、ビンタイ駅に飛んでいた無料のWi-Fiでした。慌てて持っていたスマホを繋ぎ、LINE経由で友人に電話。友人がGrabでセオムを探し、ビンタイ駅まで私を迎えに行くよう手配してくれました。友人に知らされたナンバープレートを付けたバイクが来た時の安堵感と言ったらありませんでした。
結果的には事なきを得ましたが、「どこでもセオムやタクシーが捕まるだろう」という私の考えが甘かったと、この出来事を経て痛感しました。同時に、街中でGrabなどのサービスがすっかり浸透していること、あちこちの施設でWi-Fiが使えること…これらが私のような一時滞在者にとってどれだけ有難く、助けとなってくれるのかも思い知りました。地下鉄の拡大はこれからですが、ベトナムにはすでに便利で完成した面がたくさんあるのだと、しみじみと感じたメトロ体験でした。

(旅の記録、つづきます)